パートナーとの結婚を意識したときに踏む最初のステップが、婚約です。
「婚約」という言葉は聞いたことがあっても、「婚約とはどこからどこまでを言うの?」「プロポーズとは何が違うの?」など、疑問を抱えている方もいらっしゃいますよね。
今回はそのような方に向けて、婚約の定義や方法、期間、法的効果などを解説します。これから婚約をしようと考えている方に役立つ内容ばかりですので、ぜひ参考にしてください。
本章では、婚約について解説します。
まずは、婚約の定義を確認しましょう。婚約とは、文字通り「結婚の約束をすること」をいいます。
婚約には法律上の規定・手続きが存在せず、形式が決まっているわけでもありません。どのような形であっても、結婚の約束をすれば、婚約は成立します。
また、婚約には行政上の手続きこそ必要ないものの、法的効力が発生するという特徴があります。そのため、正当な理由なしに一方的に婚約破棄した場合は、慰謝料や損害賠償を請求されることがあるのです。
なお、婚約破棄による損害賠償請求をする場合、裁判所では、「婚約指輪を贈った」「両家の顔合わせを行った」などの外形的な根拠と過去の判例と照らし合わせた上で、ふたりが婚約状態にあるかどうかを判断するのが一般的です。
では、結婚と婚約は何が違うのでしょうか。
結婚とは、当事者間が夫婦になることです。 法律上に定められた手続きを行い、社会的に夫婦として認められる行為をいいます。
また、結婚によって発生する義務として、民法には次の内容が記述されています。
一方、婚約は文字通り「結婚の約束」ですので、婚姻関係が認められるわけではありません。また、結婚によって生じる権利や義務は、婚約時点では発生しない点も特徴です。
婚姻・婚約と似た言葉に、「内縁」があります。内縁とは「事実上夫婦として生活しながら、所定の届出を欠くため、法律上の婚姻に至らない男女の関係」をいいます。
つまり、男女が法律で定められている届出こそしていないものの、当事者が婚姻の意思をもって夫婦同然の生活を送っている状態のことです。内縁関係にあると認められた男女は、法的な夫婦と同じような権利・義務を背負うことになります。
法律で定められている届出をしていないという点では共通しますが、法的な夫婦と同様の権利・義務を負うという点で、内縁は婚約とは異なります。
先ほど解説したように、婚約は結婚と異なり、「婚姻届の提出」などの法的手続きは不要です。ただし、婚約破棄による損害賠償請求を行う場合では、ふたりが本当に婚約しているかどうか、裁判所にて法的に判断しなければなりません。
裁判所では、過去の判例に基づき、ふたりが婚約状態にあるかどうかを判断しています。
例えば婚約について当事者間が合意していることや、ふたりが婚約していることを家族や勤務先などの第三者に明らかにしているといった公然性の有無が、判断基準として利用される傾向にあります。
もし婚約状態を裁判所で証明できるかが不安という方は、次の章で解説する「婚約を成立させる方法」で、なるべく婚約の証拠が残るような婚約方法を選択するのがおすすめです。「裁判所なんて関係ない」と思っている方も、万が一の場合に備えて婚約の証拠を残しておいたほうが良いですよ。
婚約期間とは、婚約成立後から婚約届が受理されるまでの期間を指します。
2人が「結婚しよう」と約束した瞬間から、婚約期間はスタートします。そのため、一般的にはプロポーズをして相手が合意した瞬間から婚約が始まるといえるでしょう。婚姻届を提出してふたりが無事入籍するまで、婚約期間が続きます。
次に、婚約を成立させる方法を紹介します。
パートナーや両家の意向などを踏まえて、自分たちに合った方法を選択してください。
一つ目の方法は、口約束です。「結婚してください」「はい」といった口頭でのやりとりであっても、双方に婚約の意思があれば婚約は成立します。なお、婚約は当事者間だけでの口約束でも成立しますが、公の場で結婚の石を示した場合も成立します。
ただし、婚約が成立するのはお互いに結婚の意思がある場合です。一時の感情の盛り上がりで「結婚しよう」と相手に伝えたとしても、婚約として認められません。
なお、婚約が成立することと、裁判所などで「婚約状態にある」と認めてもらえることは別問題です。結納や両家の顔合わせと違って婚約の証拠が残らないため、婚約破棄による慰謝料・損害賠償請求がしにくいという特徴があります。
口約束での婚約をする場合、次のような外形的な事情があれば婚約を認められやすくなります。婚約の際は、口約束に加えてこれらのような行動が見られると、婚約状態の根拠になりますよ。
婚約証書とは正式に婚約したことを証明する契約書です。結婚と違って婚約では書類の届出は必要ないものの、契約書を交わせば裁判などでも婚約関係を証明できるようになります。
二つ目の方法は、結納です。結納とは、婚約の成立を確約させるために、両家で結納品を取り交わすことをいいます。
結納は、仲人が両家を行き来する「正式結納」と、両家が揃って儀式を行う「略式結納」の二つにわけられます。ただし、略式結納であっても仲人を立てる場合があり、どれを選択するかは地域や家のしきたりによって異なります。
本来は女性・男性どちらかの実家で行われますが、略式結納ではホテルなどで結納の場が設けられることがほとんどです。
単なる口約束と違ってお祝い品を取り交わすため、「婚約状態にある」という証拠をしっかり残せるのが特徴です。ただし、結納の形は家庭によってさまざまですので、双方が納得した上で取り行えるように両家でしっかりと話し合うことが大切ですよ。
三つ目の方法は、両家の顔合わせです。先ほど紹介した結納は格式高い儀式のため、時間や費用がかかってしまうという難点があります。そのため、現代では結納に代わって両家の顔合わせを行う家庭が増えてきました。
結納との違いは、結納品の取り交わしがないことです。一般的には、結納のような婚前儀式ではなく、両家の親睦を深めるためのカジュアルな食事会を指します。場所も自宅やレストラン、ホテルなどカップルによってさまざまです。
なお、カップルによっては、結納品の代わりに腕時計などの記念品を用意する場合もあります。結納同様、どのように顔合わせを行うかは家庭のしきたりによって異なりますので、よく話し合った上で行いましょう。
続いて、実際に婚約をすることによって起こる変化をまとめました。
婚約をすると、結婚を成立させるという努力義務が発生します。
結婚を前提にパートナーと誠心誠意交際をする、夫婦として生活を始められるような状態にするなど、結婚に向けたさまざまな努力が求められます。
これらはあくまでも努力義務です。しかし、いつまでも婚姻届を提出しない、誠心誠意交際しないなどの行動が見られる場合、婚約は気とみなされ損害賠償請求を受ける可能性があるのです。
婚約は、気持ちの面にも大きな変化を与えます。
これまで将来に関する具体的な話をしてこなかったカップルであっても、婚約をきっかけに、将来をより真剣に考えるようになるでしょう。
一方で、結婚前に憂鬱や不安を抱えてしまう「マリッジブルー」に陥ることもあります。婚約・結婚は人生の節目にもなる大きなイベントですので、ストレスを感じてしまう方も多いのです。
不安な感情とも上手に向き合いつつ、自分たちのペースで結婚の実現に向けて動いていくことが大切です。
続いて、万が一婚約破棄した・された場合についてまとめました。
婚約破棄とは、一方的な申し出により婚約を取り下げる行為をいいます。正当な理由なしに婚約破棄をすると、慰謝料や損害賠償を請求される場合があるのです。
先述のように、婚約は法的効力を持ち、「婚姻の予約」という契約とみなされます。よって婚約破棄をすると、契約の債務不履行にあたるのです。同時に、結婚するという利益や権利を侵害したとみなされ、不法行為とみなされる場合もあります。
以上のことから、婚約破棄では債務不履行責任や不法行為責任を問われる可能性があるということを覚えておきましょう。
ただし婚約を破棄した、もしくはされた場合でも、理由によっては損害賠償責任が生じないこともあります。損害賠償責任が生じないケースについては、後ほど解説します。
婚約破棄と似た言葉に、「婚約解消」があります。これらの違いを確認していきましょう。
婚約解消は、当事者間の合意の上で婚約を取り消すことをいいます。対する婚約破棄は、相手の合意なしに一方的に婚約を取り消すことです。
なお、何らかの事情によって婚約を取り下げたいと思ったときは、なるべく婚約の破棄ではなく解消に向けて動くようにしましょう。「なぜ婚約を解消したいのか」をお相手ときちんと話し合った上で、できるだけ円満に解決できるよう努めれば、訴訟などの争いを防げます。
続いて、婚約破棄による損害賠償責任が生じるケースについて確認しましょう。
婚約破棄をされたとき、相手に損害賠償を請求するには次のふたつの条件が必要です。
まずは「婚約が成立していること」が大前提です。損害賠償請求をする場合は婚約の成立を裁判所に認めてもらう必要があります。口約束でも婚約自体は成立します。しかし、損害賠償を請求する場合は、第三者から見て当事者が婚約状態にあるとわかるような外形的な事情が必要です。
続いて、相手が正当な理由なく婚約を破棄したことも条件に含まれます。どのような内容が正当な理由に含まれるのかは、後ほど解説します。
婚約破棄をしたからといって、直ちに損害賠償責任が生じるわけではありません。婚約破棄に正当な理由がある場合は、慰謝料・損害賠償請求の対象になりません。
民法770条1項では、法定離婚事由として次の内容が定められています。これらの内容は、婚約破棄の理由が正当かどうかを判断する場合にも参考にされているのです。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
出典:民法第770条1項
たとえば「相手が浮気していた」「相手が既婚者であることを隠して婚約していた」「結婚前に相手が失踪した」などの内容は、婚約破棄の正当な理由として認められます。婚約を破棄する場合は、これらの証拠をしっかりと残しておくことが大切です。
反対に「何となく冷めてしまった」「家族に反対されてしまった」といった内容は、正当な理由には該当しません。
「婚約とはどこからどこまでを言うのだろう?」と気になっていた方は、今回の記事を参考に疑問を解消できたのではないでしょうか。
また、婚約の定義や方法、婚約することによって当事者に起こる変化を確認しておくと、婚約から結婚までスムーズに進められるでしょう。万が一の場合に備えて、婚約の破棄や解消についても確認すると安心です。
パートナーと婚約を交わすのであれば、ぜひ今回の記事を役立ててください。